枝吊り作業の不思議!?

2026年7月4日(日)

現在、当園の施設デコポンは、
順調な果実肥大(成長)を見せてくれています😁

そして、園主である私はというと……
絶賛「枝吊り作業」の真っ只中で汗を流しております!

少し前に、このブログでも触れましたが、
今年は「摘果作業」を行いながら、同時に「枝の整理」を
するという新しい試みにチャレンジしてみました。
W杯の熱狂、そして梅雨の晴れ間の「大格闘」! – 果樹園主のひとりごと

その成果がバッチリ出まして、今年は全体的に視界スッキリ、
非常にスムーズな流れで枝吊り作業に突入することができています。
我ながらナイス判断!

さて、この「枝吊り作業」。

ふと考えたんです。「そもそも、なんでこんなに必死に吊ってるんだっけ?」と。
改めてその目的を整理してみたのですが……。

これまで私は「実が重すぎて枝がボキッと折れないようにする。」
「枝を吊って全体的に光を入れる」くらいに思っていました。
しかし、農業の先輩方の話や資料を紐解いてみると、
実はこれ、「植物ホルモンを意のままにコントロールする」科学的な
技術だったことが判明したのです!

今日は、知ればデコポンが10倍美味しくなる(かもしれない)、
枝吊りのディープな裏側をお話しします。

1. 似て非なるもの!「枝吊り」と「玉吊り」の境界線

まず、「吊る」と言っても、柑橘の世界には2つの異なる作業があります。
ここを整理しておきましょう。

実は、栽培方法(ハウスを温めるかどうか)によって、主役が変わるんです。

  • 加温栽培(ハウスを暖房で温めるリッチな栽培): 主役は果実!「玉吊り」を行います。
  • 無加温栽培(我が家のように、被覆だけで育てる栽培): 主役は骨格!「枝吊り」を行います。

分かりやすく表にまとめてみました。

作業名対象主な目的
玉吊り(たまつり)果実、または果実がついた細い枝果実を1玉ずつ紐で吊り、太陽の光を360度ムラなく当てる。果実同士が風で擦れてキズがつくのを防ぐ、いわば「お嬢様育ちコース」。
枝吊り(えだつり)主枝や亜主枝(木の骨格となる太い枝)枝の角度を**「黄金の45度前後」**に保ち、木の勢い(樹勢)をコントロールする、いわば「骨格矯正・筋トレコース」。

デコポンは、その名の通り頭がポコッと膨らんだ巨大な果実。
放っておくと、実の重みで太い枝ごとダラ〜ンと下がってしまいます。

それをハウスの梁や支柱から紐でグッと引っ張り上げ、
適切な「角度」にシャキッと修正してあげる。
これが当園でも行っている「枝吊り」です。

2. 枝吊りと「3大植物ホルモン」の緊迫した関係

ここからが今日の本題。
なぜ、わざわざ枝を吊り上げて「45度程度」をキープしなければならないのか?

その理由は、枝の傾きひとつで、木の中を流れる「オーキシン」「ジベレリン」「サイトカイニン」という3つの植物ホルモンの大血流が変わってしまうからなのです。

① 「上から下へ」流れるオーキシン!

オーキシンは、主に「枝の先端(新芽)」で作られ、
重力に従って上から下へと流れるホルモンです。

「頂芽優勢」という、「先端の芽だけをボスとして優先的に成長させ、
側面の脇芽は眠らせておく」というリーダーシップ特性があります。

  • 【危険!】枝が下がってしまうと……枝が重みで水平や下向きに垂れ下がると、
    重力の影響でオーキシンが枝の「お腹側(下面)」にどろりと偏って溜まってしまいます。
    するとボスの統制が失われ、本来なら眠っているはずの「背中側(上面)」の芽が
    「俺の時代か!?」と勘違いして一斉に目を覚まします。
    ここから上に向かってビュンビュン伸びる無駄な枝、
    通称「徒長枝(とちょうし)」が乱立!果実にいくべき大事な栄養を、
    この勢いの強い枝たちが横取りしてしまうのです……。
  • 【枝吊りの効果】枝をグッと45度に吊り上げることで、
    オーキシンが枝の内部を左右対称に、バランスよくサラサラと流れるようになります。
    これにより無駄な暴走(徒長枝の発生)を抑え、栄養のロスを完璧に防ぐことができるのです。

② 「下から上へ」登るジベレリン&サイトカイニンの道を切り拓け!

一方で、植物の細胞分裂や成長を促す元気の源「ジベレリン」「サイトカイニン」は、
主に「根っこ」で作られます。彼らは水や栄養と一緒に、空(上)に向かって昇っていく性質があります。

  • 【危険!】枝が下がってしまうと……枝先が下を向いてお辞儀した状態になると、根っこから「おーい、栄養持ってきたぞー!」と上ってきたジベレリンたちが、
    その下がった枝先までスムーズに辿り着けなくなります。
    ホルモン供給というライフラインがストップした枝先は、
    次第に元気を失って老化し、肝心のデコポンの実が大きくならなくなってしまうのです。
  • 【枝吊りの効果】「頭を上げるように!」枝先を再び天に向けて吊るしてあげることで、
    根からの成長促進ホルモンのパイプラインがガバッと開通します!
    これにより、枝の先端までエネルギーがみなぎり、
    デコポンの果実肥大を強力にバックアップしてくれます。

3. 「今年の子育て」と「来年の準備」を両立させる

柑橘農家を悩ませる最大の敵、
それが「隔年結果」。たくさん実がなった翌年は、
木が疲れ果てて極端に収穫量が減ってしまう現象です。

枝が下がったまま放置されると、その枝は
「もう後がない!子孫を残さなきゃ!」と、
実をつけること(生殖成長)に全エネルギーを注ぎ込みすぎてしまい、
燃え尽き症候群になってしまいます。これでは来年、元気な実が結びません。

枝吊りによって適切な角度(45度程度)を維持することは、
「今年の子ども(果実)を立派に育てつつ、
ホルモンバランスを整えて、来年の準備(母子作り)の
ための体力を木に残してあげる」という、
「木の健康マネジメント」なのです!

夏の施設内は、正直に言ってサウナ状態。
立っているだけで汗が滝のように流れるタフな現場です。

この一見地味な、でも科学的なひと手間こそが、
デコポンをより大きく、より甘くするひと手間です。

「甘くてジューシーで、濃厚な高級デコポン」はこうして
つくられます。

大地と甘夏

KATO果樹園 園主 大学卒業時に将来農業で起業することを決意。 食品会社、JA職員、製薬会社での勤務を経て、 2023年、就農に向けて熊本県芦北地方に移住。 2024年、念願の就農。 現在、甘夏(70a) 、施設デコポン(12a) 、 露地デコポン(20a) 、黄金柑(5a)、 一寸ソラマメ(5a)、お米(30a)の 生産規模で経営。 「ブルーベリー」「にんにく」の生産挑戦のため準備中。

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