2026年11月3日(火)
製薬会社の営業マンを辞めて、脱サラ果樹園主となって3年目の秋を迎えています。
果樹園主とは名乗りつつも、要するに個人事業主。根っからの自営業者です。
なにを今更……という話ですが、農家の仕事って「1から10まで、本当にすべてが自分の裁量次第」。
なんですよね。
「農産物を作っているんだから、やるべき仕事なんて決まってるでしょ?」 そう思われるかもしれません。確かに、大まかな年間スケジュールや作業内容は明確です。
しかし、その作業を「いつ」やるかという最適期、他の作業との兼ね合い、そもそも「今、本当にその作業が必要なのか?」という判断……。農業には、会社員時代のような「正解の仕様書」がありません。
「おそらく、これで間違いないはずだ!」 そう自分を信じて、
迷いながらも前へ突き進む毎日です。
となると、働き方に「農家それぞれの個性」がそのまま出てしまうわけですが……私の場合は
「作業は大雑把なのに、計画だけはキツキツに組んでしまう」というタチの悪いクセがあります。
その結果どうなるか。 「今日は子どもとの時間を作るために、絶対早めに切り上げるぞ!」と堅く心に誓っていても、気がつけば結局一日中畑にいて真っ暗……なんて日常が日常茶飯事なのです。
前置きが長くなりましたが、そんな僕のある「なんでもない一日」の記録です。
目次
【AM 6:30】やっちまった朝
この日のスタートは、昨日終わるはずだった「にんにく」の播種(種まき)の残り作業から。
本来なら、日の出と同時にイノシシ等の「くくり罠」の見回りに行きたかったため、
午前5時にヘッドライトをつけて播種を終わらせる完璧なスケジュール……だったはずでした。
が、目が覚めるとすでに外が明るい(笑)。 時計を見ると、時すでに午前6時30分。
見事な寝坊です。慌てて準備をして畑へ飛び出しました。
【AM 8:00】巨大な「想定外」との対峙
8時過ぎになんとか播種を終え、急いで罠の見回りへ。
最近は空振りが続いていたので「さっと見て回って遅れを取り戻そう」と思っていたのですが……
訪れた農家仲間「きくりん」の果樹園で異変が発生。
巨体のイノシシが、まるで僕を待ちわびていたかのようにじっと睨みつけているではありませんか。
「まいったな……これはデカすぎる……。」
ひとまず空気銃で速やかに止め刺しを行いましたが、問題はこの巨体をどうやって運び出すか。
一人で頭を抱えていると、タイミングよく「きくりん」本人が園地へ登場! 神様に見えました。早速応援を頼み、ふたりがかりで無事に処理・搬出することができました。
色づき始めたデコポンを狙うイノシシは枝ごと折ってしまうため、被害は大きくなります。
この時期に巨大なオスを捕獲できた事は、みかん農家にとっては一安心です。
【PM 12:30】昼飯返上の巻き返し
思わぬ大物の捕獲で、スケジュールはさらに大幅なロスタイム。 次なる作業は「一寸ソラマメ」の防除と、発育不良苗の補植作業です。
「ここまでは何が何でもお昼までに終わらせる……!」 お昼ご飯は泣く泣く諦め、
全集中で作業を進め、なんとか12時30分にミッション完了。空腹を抱えたまま後半戦へ突入です。
【PM 1:00】「ついで」が引き寄せた大事件
午後の最終業務は、明日以降に予定しているデコポンハウスのビニール被覆に備え、施設周辺と内部の草刈りです。
「よし、2時間でビシッと終わらせよう!」 そう気合を入れて刈払い機を回し始めました。草刈りって始めるまでは腰が重いのですが、いざスタートするとゾーンに入ってのめり込んでしまうんですよね。
予定していた箇所を狩り終え、「せっかくだし、もう少し広い範囲までついでに刈っておくか!」と足を伸ばしたのが……すべての始まりでした。
綺麗になった草むらの奥に見えてしまったのです。鮮明な「獣道」が。
あからさまに、我が園のデコポンと甘夏を狙いにきているルートです。慌てて周囲を点検すると、生々しい足跡、土の掘り返し跡、そして決定的な糞……。
「……これは、今すぐ手を打たないとヤバい!!」
スイッチが入ってしまった元・営業マン、ここから完全にゾーンを超えた「本気の仕事モード」へ突入です。 これまで当園への侵入実績がある危険エリアを緊急見回り。予想通り、数箇所から侵入された形跡を発見しました。
倉庫から「くくり罠」の在庫をかき集め、既存の罠と合わせて規定の上限(30個)ギリギリまで整理。
園地の周囲をぐるりと固める、絶対防衛網(トラップライン)を急遽張り巡らせました。
【PM 6:00】「裁量権」の末路と、最高の夜
ハッと気がつくと、日はすっかり傾き、周囲は薄暗い午後6時。
「……あれ? 今日って『子どもと過ごす時間を作る日』じゃなかったっけ……?」
「はぁ。またやってしまった……。」
「自分の裁量で働ける」という自営業の自由さは、こだわり始めると「どこまでも仕事をしてしまう」という罠と背中合わせなのだと、沈む夕日を背に痛感した瞬間でした。
ですが、落ち込んでいても始まりません。 家に帰り、何事もなかったかのような顔で息子に声をかけます。
「よし! 今から温泉でも入りに行くかー!」
「行くー!」と喜ぶ息子と一緒に湯船に浸かり、1日の疲れと「計画倒れ」の反省を温かい湯に溶かした、
そんな果樹園主の秋の一日でした(笑)。
